勝っても昔ほど儲からない。ジャイアンツ決算で見えた「ブランド商売の賞味期限」

ジャイアンツ決算を題材に、売上は伸びても利益率が下がるブランド商売の賞味期限を表したサムネイル 商売の構造論
プロ野球の決算を見るとき、つい最初に順位を見てしまう。優勝した年は儲かったのか。Bクラスの年は苦しかったのか。監督が変わると売上も変わるのか。もちろん、それも気になる。野球なのだから、勝ったか負けたかは大きい。

でも、読売ジャイアンツの2003年度から2024年度までの決算を並べてみると、もう少し別のものが見えてくる。

これは単なる野球の話ではない。

「ブランド商売の賞味期限」の話だ。

図1|この記事の見取り図

ジャイアンツの決算
売上は戻る
利益率は戻らない
ブランド商売の賞味期限

「勝てば儲かる」のではなく、「ブランドだけで高収益を維持できる時代が終わりつつある」という流れを整理した図。

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ジャイアンツは本当に儲かっているのか

まず、2024年度の数字を見てみる。

売上高は270.78億円。経常利益は11.61億円。当期純利益は6.85億円。

数字だけを見れば、もちろん黒字だ。しかも売上270億円規模の球団である。プロ野球の中でも、巨大ブランドであることに変わりはない。

けれど、ここで大事なのは売上の大きさだけではない。

商売として見るなら、見るべきは「どれだけ売ったか」だけではなく、「どれだけ残ったか」だ。

図2|まず見るべきは「利益率」

経常利益率 = 経常利益 ÷ 売上高 × 100

例:2024年度のジャイアンツ

経常利益率 = 11.61億円 ÷ 270.78億円 × 100

≒ 4.3%

売上の大きさより、「どれだけ残ったか」を見ると商売の体質が見えやすい。

2024年度の経常利益率は約4.3%。

これだけを見ると悪くないようにも見える。だが、過去の巨人と比べると印象が変わる。

2003年度は売上239.97億円に対して、経常利益33.41億円。経常利益率は13.9%。

2005年度も売上243.82億円、経常利益32.73億円、経常利益率13.4%。

つまり、昔のジャイアンツは売上240億円前後で、経常利益30億円超を出していた。

今は売上270億円まで伸びても、経常利益は11億円台にとどまっている。

売上は戻った。でも昔ほど儲からない。

このズレが、今回いちばん面白いところだ。

監督別・順位別で見るジャイアンツ決算

では、年度ごとの数字を監督別・順位別に見てみる。

下の表では、売上高・経常利益・当期純利益を億円換算で整理した。経常利益率は、経常利益を売上高で割ったものだ。

監督期 年度 監督 順位 売上高 経常利益 純利益 経常利益率
原① 2003 原辰徳 3位 239.97億 33.41億 18.46億 13.9%
堀内 2004 堀内恒夫 3位 247.48億 30.91億 17.57億 12.5%
堀内 2005 堀内恒夫 5位 243.82億 32.73億 18.63億 13.4%
原② 2006 原辰徳 4位 235.38億 27.51億 15.93億 11.7%
原② 2007 原辰徳 1位 240.69億 24.76億 13.58億 10.3%
原② 2008 原辰徳 1位 243.43億 22.56億 11.78億 9.3%
原② 2009 原辰徳 1位 248.43億 27.84億 15.40億 11.2%
原② 2010 原辰徳 3位 218.56億 20.42億 10.97億 9.3%
原② 2011 原辰徳 3位 221.74億 27.56億 14.30億 12.4%
原② 2012 原辰徳 1位 250.79億 37.51億 21.68億 15.0%
原② 2013 原辰徳 1位 245.10億 25.21億 14.62億 10.3%
原② 2014 原辰徳 1位 250.13億 24.39億 14.12億 9.8%
原② 2015 原辰徳 2位 253.29億 22.85億 14.76億 9.0%
高橋 2016 高橋由伸 2位 256.42億 23.82億 16.03億 9.3%
高橋 2017 高橋由伸 4位 264.12億 18.88億 12.54億 7.1%
高橋 2018 高橋由伸 3位 260.02億 10.74億 6.85億 4.1%
原③ 2019 原辰徳 1位 293.77億 25.66億 16.68億 8.7%
原③ 2020 原辰徳 1位 113.39億 ▲57.50億 ▲37.09億 ▲50.7%
原③ 2021 原辰徳 3位
原③ 2022 原辰徳 4位 216.87億 4.02億 2.21億 1.9%
原③ 2023 原辰徳 4位 245.28億 21.04億 10.40億 8.6%
阿部 2024 阿部慎之助 1位 270.78億 11.61億 6.85億 4.3%

※決算数値は入力データを億円換算。順位はセ・リーグのレギュラーシーズン順位。2021年度は決算数値が未確認のため「–」表記。

この表を見ると、かなり面白い。

堀内恒夫監督時代は、チーム成績の印象だけで語ると暗い時代に見える。2005年は5位だった。

ところが、決算だけを見るとかなり強い。2005年度は売上243.82億円、経常利益32.73億円、経常利益率13.4%。

順位は5位。でも商売としてはかなり儲かっていた。

つまり、当時のジャイアンツは「勝てなくても稼げるブランド」だった。

逆に、2024年度は阿部慎之助監督の初年度でリーグ優勝。売上も270.78億円まで伸びた。

しかし、経常利益率は4.3%。

勝った。売上も大きい。でも昔ほど利益率は高くない。

図3|「勝つこと」と「儲かること」は同じではない

競技面

順位・優勝・勝率

経営面

売上・利益・利益率

ジャイアンツ決算を見ると、次のようなズレが出てくる。

  • 順位が悪くても利益率が高い年がある
  • 優勝しても利益率が低い年がある
  • つまりブランド商売は、成績だけでは説明できない

昔の巨人は「名前だけで売れる」商売だった

昔のジャイアンツは、今よりもずっと単純に強かった。

もちろん野球の強さもある。スター選手もいた。テレビ中継の力もあった。

でも、それ以上に大きかったのは「巨人だから見る」「巨人だから知っている」「巨人だから話題になる」という全国区ブランドだった。

これは商売としてかなり強い。

なぜなら、集客コストが低いからだ。

普通の商品やサービスは、まず知ってもらうところにお金がかかる。広告を出し、キャンペーンを打ち、SNSで認知を取り、ようやく選択肢に入る。

でも、昔の巨人は最初から知られていた。

しかも、野球にそこまで詳しくない人でも「巨人」は知っていた。

この状態は、商売としてはかなり有利だ。

数式図|昔のブランド商売

利益 = 強い知名度 × 低い集客コスト

強いブランド名があり、テレビ露出があり、スター選手がいて、娯楽の競争相手が今ほど多くなかった。

この条件がそろっていた時代のジャイアンツは、たとえ順位が悪くても利益を出せた。

ブランドが勝手に仕事をしてくれていたとも言える。

図4|昔のブランド商売と、今のブランド商売

強いブランド名

+ テレビ露出

+ スター選手

+ 競争相手が少ない


= 名前だけでも高収益になりやすい

強いブランド名

+ 体験価値

+ SNS・配信対応

+ 地域密着・球場運営・物販


= ブランドを再加工しないと利益が伸びにくい

売上は戻っても、利益率が戻らない理由

2024年度のジャイアンツは、売上270.78億円まで戻している。

数字としては強い。ブランドが消えたわけではない。巨人はいまも巨大ブランドだ。

それでも、利益率は昔ほど高くない。

ここで見たいのは、売上ではなくコスト構造だ。

商売は、売上が増えれば自動的に利益が増えるわけではない。

図5|売上があっても利益が薄くなる構造

利益 = 売上 − コスト
人件費
年俸
イベント費
球場運営費
配信・映像制作
販促費
デジタル投資
ファンサービス

昔よりも「ブランドを維持するための支出」が増えると、売上が戻っても利益率は元に戻りにくい。

今のスポーツビジネスは、昔よりもやることが多い。

球場に来てもらうだけでは足りない。グッズ、飲食、イベント、配信、SNS、ファンクラブ、デジタル施策、映像コンテンツ、スポンサー対応。ブランドを保つために必要な支出が増えている。

昔は「巨人だから」で人が動いた。

今は「巨人だけど、なぜ今見るのか」「なぜ球場に行くのか」「なぜグッズを買うのか」を作り続けなければならない。

ブランドは残っている。だが、ブランドを維持するコストが上がっている。

ここが大きい。

数式図|今のブランド商売

利益 = 売上 − 維持コスト − 再投資コスト

ブランド商売の賞味期限とは何か

ここで言う「賞味期限」は、ブランドが消えるという意味ではない。

巨人ブランドは今でも強い。知名度もある。歴史もある。ファンもいる。売上規模も大きい。

でも、昔のように「名前だけで高い利益率が乗る状態」ではなくなってきている。

ブランドは資産だ。

けれど、資産は放置すると古びる。

看板が古くなる。客層が変わる。競争相手が増える。時代の見られ方が変わる。昔は通用した勝ちパターンが、少しずつ効かなくなる。

図6|ブランド商売の賞味期限モデル

名前だけで売れる
名前+理由が必要になる
再設計しないと利益が縮む

言い換えると:

ブランドは消えるのではなく、放置すると“効き目”が弱くなる。

これはプロ野球だけの話ではない。

老舗企業でも、個人店でも、ブログでも、副業でも同じだ。

昔からある名前。長く続いている実績。過去の成功体験。これらは確かに資産になる。

でも、そこにあぐらをかくと、少しずつ利益率が落ちていく。

売上はある。知名度もある。客もいる。

それなのに手元に残るお金が減っていく。

これはかなり怖い。

ブランドが死んだのではない。

ブランドの稼ぎ方が古くなったのだ。

巨人は弱くなったのではなく、稼ぎ方の時代が変わった

ジャイアンツを「もう終わった」と言いたいわけではない。

むしろ、売上270億円規模まで戻している時点で、ブランドとしてはまだ相当に強い。

問題は、売上ではなく利益率だ。

昔の巨人は、全国区のテレビスター球団だった。

今は、スポーツも娯楽も細分化している。

野球だけでも、国内プロ野球、メジャーリーグ、高校野球、独立リーグ、女子野球、YouTubeの野球チャンネル、SNSの切り抜き、選手個人の発信など、見る対象が増えている。

野球以外にも、動画配信、ゲーム、SNS、推し活、音楽、格闘技、海外スポーツがある。

昔のように「夜はテレビで巨人戦」という生活導線は、もう当たり前ではない。

つまり、巨人ブランドは今も強いが、競争環境が変わった。

昔はブランドが勝手に集客してくれた。

今はブランドを使って、体験・物販・配信・地域・コミュニティを作り直さないといけない。

MLB型の経済圏と、日本球団の課題

メジャーリーグを見ると、野球はまだ大きなビジネスになり得る。

むしろ、スポーツビジネス全体で見れば、伸びている領域も多い。

違いは、野球を単なる試合ではなく、経済圏として設計できているかどうかだ。

図7|MLB型と日本球団型の違い

MLB型

  • 放映権
  • 配信
  • 球場周辺開発
  • 不動産
  • スポンサー
  • グローバル市場

日本球団型

  • チケット
  • 物販
  • スポンサー
  • 球場収入
  • 地域イベント
  • 親会社との関係

MLBは、試合そのものだけではなく、放映権、配信、球場周辺開発、不動産、スポンサー、グローバル展開まで含めたビジネスになっている。

日本の球団でも、横浜DeNAベイスターズのように球場と街を含めて価値を作っている球団がある。阪神には甲子園という強烈な資産がある。ソフトバンクもドームと周辺経済圏を持っている。

そう考えると、これからの球団経営は「勝つ」だけでは足りない。

勝つことはもちろん大事だ。優勝は強いコンテンツになる。

でも、勝利を売上に変え、さらに利益に変えるには、別の設計が必要になる。

ブランド名、球場体験、地域経済、配信、グッズ、ファンクラブ、スポンサー、デジタル導線。

それらをどう組み合わせるかで、利益率は変わってくる。

これは個人の副業にもそのまま当てはまる

この話は、プロ野球の巨大ビジネスだけではない。

個人の副業にも同じことが起きる。

最初は、ひとつの強みで売れることがある。

文章が書ける。配達が早い。地域に詳しい。動画編集ができる。AIが使える。SNSで少し当たった。ブログ記事が検索で上がった。

でも、その強みを放置していると、だんだん効き目が弱くなる。

競争相手が増える。単価が下がる。プラットフォームの仕様が変わる。読者の興味が変わる。自分の体力も変わる。

最初に効いた勝ちパターンが、永遠に効くとは限らない。

だから副業でも、ブランドの再加工が必要になる。

ただ作るだけではなく、導線を作る。記事を増やすだけではなく、回遊を作る。商品を売るだけではなく、信用を積み上げる。

強みを持っていることと、その強みで利益を残せることは別だ。

数式図|一行で言うと

売上回復 ≠ 利益率回復

ジャイアンツ決算から見える結論

ジャイアンツは、今でも巨大ブランドだ。

売上もある。歴史もある。ファンもいる。球界の中心であり続けている。

でも、数字を見ると、昔のように「巨人だから自動的に高利益率」という時代ではなくなっている。

2000年代前半の巨人は、順位が悪くても利益率が高かった。

2024年度の巨人は、優勝して売上を伸ばしても、経常利益率は4.3%にとどまった。

この差は、かなり大きい。

勝ったかどうかだけでは説明できない。

これは、巨人ブランドが消えたという話ではない。

巨人ブランドの使い方を、時代に合わせて再設計しなければいけない段階に来ているという話だ。

図8|この記事の結論

ジャイアンツブランドは消えていない
でも「名前だけで高収益」の時代は終わりつつある
これからはブランドを“経済圏”として再設計できるかどうか

ブランドは資産だ。

でも、資産は持っているだけでは増えない。

手入れしない土地が荒れるように、放置されたブランドも少しずつ効き目を失う。

ジャイアンツ決算の面白さは、そこにある。

これはプロ野球の勝敗表ではなく、ブランド商売の耐用年数を見せてくれる資料なのだ。

まとめ

今回の話をまとめると、こうなる。

  • ジャイアンツは今も売上規模の大きい巨大ブランドである
  • 2000年代前半は、順位が悪くても高い利益率を出していた
  • 2024年度は優勝して売上270億円を超えたが、経常利益率は4.3%だった
  • 勝つことと儲かることは、同じではない
  • 昔は「巨人という名前」そのものが高収益を生んでいた
  • 今はブランドを体験・地域・配信・物販・経済圏へ再加工する必要がある

強いブランドは、最初から強い。

でも、強いブランドほど、過去の成功体験に引っ張られやすい。

ジャイアンツの決算から見えるのは、プロ野球の話だけではない。

どんな商売にも、ブランドの賞味期限がある。

名前で売れた時代が終わったあと、どうやってもう一度選ばれる理由を作るのか。

そこに、これからの商売の勝負どころがある。

編集後記

ジャイアンツの決算を見ていて面白いのは、野球の強さよりも商売の構造が見えてくるところだ。

昔の巨人は、成績が多少悪くても利益を出せた。これはもう、チーム成績というよりブランドの力だったと思う。

でも今は、売上が戻っても利益率が昔ほど戻らない。これは巨人が終わったというより、「名前だけで勝てた時代」が終わりつつあるということだ。

副業でもブログでも同じで、昔当たった型をそのまま置いておくと、少しずつ効かなくなる。ブランドは作って終わりではなく、磨き直して、導線を作って、もう一度選ばれる理由に変えていくものなのだと思う。

副業研究所では、商売の「構造」を分解しています。

副業、個人事業、ブログ、フードデリバリー、資産防衛。小さく稼ぐ人が生き残るための商売論を、現場目線で整理していきます。

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